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ここは2036?~007~

ここは2036?~007~


今日のお空は暗くて、ピカピカーって光ってる日。
お空の上で、誰かがバトルしてるのかな?

◇◇◇

こんにちは、ハーだよ♪

今日はマスターがお休みの日。
お休みの日は、みんなでお散歩するんだけど...。

今日のお空は、暗くて、ゴロゴロ音が鳴ってるの。
こんな日は決まって、雨が降るの。

マスターが教えてくれたんだけど、今は"ツユ"っていう時期で、今日みたいなお空と雨がずっと続くんだって。

ハーは雨が嫌い。
だって、お散歩はできないし、マスターが買ってくれたお洋服が濡れちゃうから。

◇◇◇

ハーはいまね、窓の隅にできた水玉を指でなぞってお絵かきしてるの。
こっちがマスターで、こっちがお姉ちゃん。
あとはハーとイッチーも描いて完成。
みんなでお散歩してる絵にするんだー。

『ハー、なに描いてるの?』

お姉ちゃんがメモを取りながら、ハーの絵を見に来たの。

お姉ちゃんが持ってるあのメモは"かけーぼ"っていって、マスターの生活に欠かせないものなんだって。
むつかしい計算が書いてあってハーにはよく分からないけど、マスターは"ろ〜ひ"っていうのが多いから、お姉ちゃんがしっかりしてないとダメなんだって。

ハーはお姉ちゃんに絵の説明をすると、お姉ちゃんは首を傾げて言ったの。

『これ、ハーじゃないの?』
『わふ、わふふー?(これ、お姉ちゃんだよ?)』
『ハーは本当に優しい子だねぇ』

お姉ちゃんがハーの頭を撫でてくれてるけど、なんで撫でてくれてるかよくわからない。
でも、撫でられるの気持ちいいからなんでもいいや♪

ハーは撫でられながら、お絵かきの続きをしようとしたときーー

ドーン!

『わふっ!?』

急にお空がピカピカって光って、何か爆発したような音がしたの。
慌てて隠れるものがないか探して、近くにちょうどあったのはーー

『ハー!?ちょ、スカートの中に入っちゃダメッー!』

お姉ちゃんのスカートの中。
あ、お姉ちゃん今日は白なんだ。
ハーは白いの好きだけど、この前の黄緑色の方がもっと好きだよ?
『...ハーって、もしかして雷が怖いの?』
『わふー?(かみなり?)』
『雷はね、空に電気が流れる現象のことだよ』
『わふわふー?(誰かがバトルしてるの?)』
『ううん、雷は空が勝手に電気を起こしてるんだよ』

お姉ちゃんのスカートから顔を出してお空を見ると、まだピカピカ光ってる。

『わふ、わふー...(ハー、あれ嫌い...)』
あの光を見ると、急に胸がキューンって苦しくなるの。
ピカピカ、チカチカ。
『ハー?』

ドーン!

『わ...わふ...(マ...スター...)』
胸が、苦しいの...。

◇◇◇

ハーの様子がおかしくなったのは、2回目の雷が落ちてからでした。
ハーが私のスカートから顔を出して間も無く、急に倒れたのです。

『ハー!?どうしたの、ハーッ!?』

私の呼びかけに応答がなく、瞳が虚空を見つめるまま。
これは、一目でわかる異常事態。
すぐさま、私は自分のシステムからハーのステータスにアクセスしました。

ーーが、何度もアクセスを行おうとも、リンクが切断状態で確認できず。
なにが起こったにか検討がつかないため、私はマスターを呼ぶことにしました。

『マスター!マスター!!』

程なく、厨房で昼食の準備をしていたマスターが部屋にやってきました。

「ハウリン、どうしたの?」
『ハーが、急に動かなくなったんです!』
マスターが急いで私たちの側に寄り、ハーを両手で包むように持ち上げましたが、やはり反応がないまま。

「今は雷が落ちてるから、ノートパソコンで状態を確認してみよう」

◇◇◇

私がハーのクレイドルをノートパソコンに接続し、マスターはハーをそっとクレイドルに寝かせてあげました。
それから素体とCSCの状態を確認する為、パソコンを使って診断プログラムを走らせます。


5分後、診断プログラムを走らせた結果がパソコンのディスプレイに表示されました。

「CSCに強い負荷がかかって緊急停止したのか…」
『ハーは大丈夫なんでしょうか...』
「すぐに起動するのは可能だけど、何が原因で止まったのかが分からないんだよね...」

私は、ハーが止まったときの状況を説明しました。

「雷に何か原因があるのかな?」
『驚いたから停止、というのは神姫の仕様上あり得ませんし...』
「...CSCの記憶領域を覗いてみようか」
『マ、マスターはいいですが、私は遠慮します』

神姫にとってCSCは心を司る重要なパーツです。
その記憶領域を確認するということは、心を覗くようなもの。
持ち主であるマスターが確認するのはいいとしても、私が見るのは流石に気が引けます...。

私はパソコンから離れようとしましたが、マスターに引き止められました。

「ハウリンの気持ちは分かるよ。
でも神姫の仕様に疎い僕じゃ気づかないこともあるから、ハウリンに見てもらいたい」
『し、しかし…』
「…ハーを助けてくれないかな?」
『...分かりました』

気が引けますが、マスターの頼みと、可愛い妹の手助けになるのなら…。

早速、パソコンからハーのCSCにアクセスする準備にかかります。
マスターがパソコンでパスワードを入力し、記憶媒体のプロテクトを解除していきます。

5分ほどマスターと二人でCSCの記憶領域をチェックし始めたところ、マスターが何かに気づきました。
「…何かの記録が復旧されてる?」
それは、断片化された映像ファイルでした。
『再生された時間は、ハーが倒れた時間ピッタリですね』
「断片化されてるけど、再生は可能か…」
『これが原因ですよ、きっと。確認しましょう』
私は再生ソフトを起動し、映像ファイルを再生しました。

◆◆◆

『わふ?』
「ご...んね?」
『わふ...』
「泣かなーーで...素敵なーー見つけてあげるから」
『わふー!』
「痛ーーそんなに強く叩いたら腕が壊れーー」

『わふぅ...』
「ごめんね...さよなーー」

◇◇◇

パソコンに表示された映像は、やはり断片化されているため乱れていましたが、なんとか確認することができました。

『映っていた人、マスターではありませんでしたね...』
「そもそも、この映像の内容って...」
『ハーが捨てられる前の記憶でしょうか...』

私は、ハーが捨てられていた時のことを思い出しました。

あのときのメンテナンスオイルの供給量の不足と、両手の関節の磨耗…。
あれは、ハーの流した涙と、前のマスターから離れるのを嫌がったハーの抵抗による損傷だったのでしょう。

『ハーは、何でこの記憶を呼び戻そうとしたのでしょう?』
「戻りたいのかな、前のマスターの元に…」

私は、何も言えませんでした。
私だったら、自分を捨てたマスターの元になんて戻らない...と思います。
しかし、ハーの答えは...。

『とにかく、この映像ファイルがCSCに負担をかけていると思われます。
何かしらの処置はした方が良さそうです』
「...わかった。
じゃあ、このファイルを読み込めないようプロテクトをかけとこう」
『…削除しないんですか?』
「この記憶が復旧されたってことは、どこかでハーが前のマスターの所に戻りたいって証拠だからね。
どうしてもハーが戻りたいと言い出したら、そのときに見せてあげないと…」

マスターとしてハーを幸せにできなかった悲しみ、マスターとして認められなかった悲しみ、そんな思いだったのでしょうか?
その時のマスターの表情は、とても悲しそうでした…。

◇◇◇

あれからハーの再起動が行われ、普通の生活が戻るかと思われました。

しかし、雷が鳴るたびに緊急停止がかかり、なぜかあの映像ファイルのプロテクトが解除されていたり。
さらに、マスターの呼びかけに応えなかったりと、日が進むにつれハーの調子は悪くなる一方でした。
マスターも対処してはいましたが、根本的な解決にはなるはずもなく...。

そしてーー

「ハウリン、僕はハーにあの映像を見せようと思う」

ある日、マスターはハーに映像を見せる決断をしました。
私は断る理由がないので、頷くだけでした。
私はハーを呼びに、クレイドルへと近寄りました。

そして、事件は起きたのです。

『マスター!ハーが居ません!!』
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ここは2036?~006~

ここは2036?~006~

人間のような寿命持たない神姫にとって、一日というのは一瞬…。

そう思う方も居ますが、私は違うと思います。
なぜなら、一日を正確に記録でき、それを短時間で読み返すことができる私達。
神姫にとって、一日はとても"永い"ものなのです。

こんにちは、ハウリンです。
イッチーがあの部屋に侵入から一日が経ちました。
冒頭でも話した通り、あれから時間はさほど経っていません。
ハーは昨日に続いて遊びすぎたのか、今はイッチーと一緒にクレイドルでお昼寝中です。

私はというと、窓際で外を見ながら日向ぼっこ中です。
普段は洋服を着ている私ですが、この時ばかりは素体になって日を浴びます。
そもそもロボットである私たち神姫にとって日に当たる必要は全く無意味なのですが…。
私の場合、犬型の思考ロジックが働くのか、日に当たる事が嬉しくてたまらないのです。
特に、こうやってお腹に日が当たるようにしていると…。

『ん?これは…』

◇◇◇

『マスター?』
「ん、なにハウリン?」
『…こんな日のいいときに表にも出ず、料理本にドックイヤー付けてるマスターは人としてどうなんですか?』
「い、いきなりダメ出しされた!?」
『すみません。本来の用件とは違うのですが、あまりにもダメなので口が滑ってしまいました』
「ハウリンは料理ができるマスターって、素敵だとは思わない?」
『シャレオツです』
「な、なんか逆に馬鹿にされてるような…」
このごろ散歩の時間が減ってる罰です。

「それで、本来の用件って何なの?」
『これを見てください』
そういいながら、私は自分のお腹を指差しました。
「…素敵なお腹だね。撫でてあげようか?」
『いえ、そういう訳ではなくて… ///』

…って、私は何を頬染めてるんですか!?
いえ、確かにお腹を撫でもらえるのは嬉しいんですよ?
私がマスターの元に来た時は、よくマスターが私を犬扱いしてお腹を撫でて…。
でも、それが意外にも気持ち良くって…。

…今なら、撫でてもらってもいいかも?

いえ、やっぱりダメです!
あのときは無知だったとはいえ、はしたない姿をマスターに見られてしまいましたし…。
そもそも、私は犬型ですけど犬みたいな服従のポーズなんて…!

「…ハウリン、本当に撫でてあげようか?」
『ハッ!?』
気が付くと、仰向けに寝そべって、お腹を見せた服従のポーズで待機してました…。
慌てて立ち上がり、なるべく平然を装いますが…。
「後で撫でてあげるね?」
『…はい ///』

欲望には、敵いませんでした…。
嬉しいやら、恥ずかしいやらで、もう思考が混乱してますが、話を戻さないと!
『それは置いといて、ちゃんとお腹を見てください!』
「…この汚れって、トマトソース?」
『はい、昨日の夕食を作っていた際に飛び散ったものです。
服はソースが乾いた後に着たので、幸いにも汚れずに済んだのですが…』
「普通のホコリ程度なら拭けばいいけど、油を含んでるからねぇ…」
『そこで素体の洗浄したいのですが、"汚れ吸着ビーズ"残ってますか?』

◇◇◇

"汚れ吸着ビーズは、まさに字のごとく汚れを吸着するビーズのことです。
見た目は普通のビーズのように見えますが、触るとフニフニと弾力があり、若干ペタっと素体にくっ付く程度の粘着力があります。
このペタっとした粘着力で、神姫や武装についた埃や油などを吸着して汚れを取るのです。

簡単に神姫のメンテナンスができるので、発売当初から人気の商品ですが、最近は香りのついた物も販売されて、今では女性マスターの爆発的な大人気商品になっています。

「でも、わざわざ玩具の浴槽を買わなくても…」
マスターが玩具の浴槽にビーズを入れてくれたので、私は浴槽に手をいれビーズをグルグルと混ぜます。
『雰囲気ですよ、雰囲気。
少しは見た目のことも考えて下さい』
「雰囲気なら、これ使ってみたらどうかな?」
そう言って、マスターが棚から取り出したのは小さな金属製の板でした。
『それ、何ですか?』
「これを浴槽に入れて…」
マスターは言うがまま、浴槽の底にその板をセットしました。
「入ってみて?」
言われるまま湯船に浸かってみると、今まで体験したことのない外部出力からの情報が…。

『マスター、視覚情報に靄がかかるようになったんですけど。
しかも、身体があったかく…』
「それはお風呂のエフェクトだよ」
『エフェクト、ですか?』
「武装を装備したとき、武装側か動作用のプログラムが送られてくるよね?それを応用した技術で、神姫の素体パラメータにプログラムを流すことで擬似的にお湯に浸かった気分になれるんだって」
『なるほど、これがお湯に浸かった感じなんですね』
「どんな気分?疲れがとれる?」

どんな気分と言われても、何とも言えません。
起動してから今までお湯に浸かった経験もありませんし。

それに、神姫はロボットなので疲れというもが分かりません。
そもそも疲れとは、筋肉の疲労や疲労物質の蓄積によるものと言われていますが、私たちにソレはないのですから。
なので、ここは素直にーー

『こうやって疲れをとるなんて、人間って面倒ですね』
「そうなの?僕らは普段やってることだから、普通だと思うんだけどなぁ…」
私は湯船からビーズを一つ手にとって、撫でてみます。
ジワジワと手が温まる感覚は、血流の流れをイメージしたプログラムでしょうか。

くすぐったい感覚、でもーー
『…悪くはないですね』
そう答えると、マスターは微笑みました。
どうやら、私の答えは正しかったようです。

「そのパーツはショップで貰った試供品で、他にも種類があってーー」

そのあと、マスターがパーツについて話を続けていますがーー

なぜか、突然と思考能力が低下してきました。
しかも、強制的にスリープモードにーー。

◇◇◇

『そういえば、マスターって女性もののシャンプー使ってますよね?』

「うん、買ってくるね。それがどうしたの?」

『いえ、何で女性ものなのかと気になって…』

「何でって…僕が女の子だからに決まってるじゃん」

『…え?』

「え?」

『えぇー!?』

◇◇◇

「ハウリン?」
『ハッ!?』
マスターの呼びかけで身体がピクリと反応した為、浴槽からビーズがジャラリと音を立てて零れてしまいました。
「あーあ、何やってるの」
そう言いながら、マスターはビーズを摘まんで浴槽に戻して行きます。
『私は…』
CSCの記録を確認すると、3分間ほどスリープモードに切り替わっていました。
任意でもないのに、スリープモードに切り替わるなんて…。

「驚いたけど、神姫もお風呂で寝落ちすることがあるんだね」
『寝落ち?』
「気持ち良くなって、少し寝ちゃったりすることだね」
『じゃあ、あれは夢…というかデフラグ処理?』

デフラグは断片化したデータを整理するための処理。
スリープモードではデフラグの内容によってはCSCに映像として読み込んでしまうことが稀にありますが…。
あんなデータ、いったいどこで…。

「どうしたの、考え事?」
『いえ、あの…。
確かにマスターは細身で他の方に比べると美男子かと思いますが…。
さすがに女の子とは…ごにょごにょ』
「え、なに、よく聞こえないんだけど?」

マスターが少し心配そうに私の顔を見つめてきますが、私は急に恥ずかしくなって、タオルで自分の顔を隠してしまいました。
うぅ、あんな映像を見た後だと、なんだかマスターの顔が見づらいです…。
ここは、なんとか誤魔化さないと!

『マ、マスター!女の子のお風呂を覗くのはエッチです!!』
「えぇー!?このタイミングでそれを言う!?」
『と、とにかく向こうを向いてて下さい!』
「りょ、了解…」
マスターが後ろを向くよう促し、急いで洋服に袖を通します。
かなり強引でしたが、何とか誤魔化せました…。

「もう、いいかな?」
『は、はい、もういいです…』
マスターが振り向くと、先ほどの恥ずかしさが和らいだのか、マスターの顔が見られるようになりました。
「汚れ、取れたかな?」
『あ…』
そういえば、急いで洋服を着たので汚れが取れてるのか確認してませんでした…。
スカートをめくってみればーー
『えーと…はい、ちゃんと取れてますよ』
「ちょ、ハウリン!?」
『はぅッ!?』
わ、私はなんて大胆なことを!?
マスターが両手で目を覆い見ないように隠しましたが、これ絶対に見えましたよね!?
「…み、見てないからね?」
『う、うわーーん!!』

このあと、ハンカチを布団代わりにして、隠れるようにクレイドルで休んでいました。

『よくよく考えれば、素体を見られただけで、何が恥ずかしいのか…』
そうは思っていても、あのときの記憶はCSCに記録されて離れません。
思い出すだけで、赤面しているのがわかります。

『正確に記憶されてしまう、というのも考えものです…』

◇◇◇

『あの…マスターって、男性ですよね?』
「…どっちだと思う?」

ここは2036?~005~

ここは2036?~005~

2036年の4月中旬。
やっと寒波から抜け出した日本はいま、桜前線真っ盛りです。

紹介が遅れました、私は武装神姫のハウリンと言います。
私のマスターはーー

『わふー!』
『ハー、どうしたの?』
『わふわふふー!』
『暇なら一緒に遊んで欲しい?』
『わふ!』
『うん。
じゃあ、マスターが帰ってくるまでボール遊びでもしようね』

ーーマスターはいま、仕事に出かけています。
私と同じく武装神姫のハーは、マスターが帰ってくるまでお留守番。

明日はマスターが休みなので、今夜は一緒に食事の支度をする予定です。
どんな料理にするのでしょうか、楽しみです♪

◇◇◇

「ただいまー」

ハーと二人でスーパーボールで遊んでいると、マスターが帰ってきました。
私達は玄関まで走って行き、マスターをお出迎え。

『おかえりなさいマスター!』
『わふー!』
「ただいま。
…今日はイッチーも一緒じゃないのかい?」

そういえば姿を見せない住人が一匹。
私達の下僕ーーじゃなくて、相棒のプチマスィーンのイッチーの姿が見当たりません。
ハーがリンクしているので行き先はわかるのですが…。
『トイレじゃないでしょうか?』
『わふ!?』
「いや、イッチーもロボットの一種だしトイレはないよね?」
『冗談ですよマスター。
正直、どうでもいいので適当に答えただけです』
「イッチーとは相変わらず中の悪いことで…。
ハーはイッチーの居場所を知ってるよね?」
『わふ!(トイレです)
…わふっ!?』
「ハウリン、ハーが困ってるから…」
そういいながらマスターも困った表情を浮かべてる。
うん、流石に繰り返しネタはつまらなかったみたい。
次に翻訳するときは"沖縄でシーサーになった"と言う事にしましょう。

『ハーの話では、知らない部屋にいるそうですよ?』
「知らない部屋?
それ家の中なの?」
『わふ、わふー(家の中だけどハーは行った事ないから、知らない部屋なの)』
「なるほど、ハーの知らない部屋か。
となると、あの部屋かな?」

◇◇◇

マスターは家の奥の部屋へと進んで行きます。

ここで説明すると、マスターはいま一人暮らしですが、実は平屋建ての一軒家に住んでいます。
少し昔の話であれば、一人暮らしと言えばマンションの一室を借りて住むのが一般的でした。
しかし、高齢化が進むに連れて老後施設に移り住む人々が増加。
家を手放す方も増え、管理会社は増え続ける中古住宅を管理する人手が足りなくなってしまいました。

聞いたことがありますか?
人の住まない家は傷みが早いと。

要するに、管理会社は中古住宅を安く売って、購入者に住んでもらうことで家の傷みを抑えるようにしたのです。
今ではマンションを借りるより中古住宅を借りたり、購入した方が安くなってるのが状態です。

この家はそんな一軒家で、正直言ってマスターが住むには大きすぎるほどです。

『わふー?(この部屋?)』
ハーと私はマスターの肩に乗り、例の部屋へとたどり着きました。

「ハーはこの部屋に来たことなかったよね?」
『わふ、わふふー?(ハーはマスターの部屋と台所とトイレ以外、行ったことないよ?)』
『…ハーをトイレに連れてくとか、なに考えてるんですか?
全くもって、最低ですねっ』
「痛っ!ハウリン、耳引っ張らないで!
しかも誤解だから!」
『言い訳は聞きましょう、許しませんけど』
「許されないのかぁ…。
単にトイレットペーパーが切れたから取ってきて貰っただけなんだけどなぁ…」
マスターはしょうもない言い訳をしながらも、部屋のドアを開けます。

部屋の入口すぐそばの照明のスイッチを入れると、目に入った光景は…

◆◆◆

『マスター、奥の部屋って何があるんですか?』
今日、神姫ショップで買って貰った二着目の洋服に袖を通しながら、メモリーの情報リストから一番気になっていた事について質問しました。

神姫は断片化した情報をまとめるため、時間があるときはこんな質問をすることがあります。
それが必要な情報かを判断し、不要ならメモリーから削除します。
メモリーの容量を軽減するための作業の一環です。

でも、神姫の情報能力は人並みと言われているので、本当に必要な作業なのか直なところ私達でもわかりません。
本当は、マスターと会話したいだけなのかも?

「…ハウリン、質問したのに何でハウリンが悩んでるの?」
『あ、いえ、少し考え事を…』
「ハウリンと生活して1ヶ月経つけど、神姫って何だか見てるだけで面白いね。
それとも、ハウリンが面白いのかな?」
マスターは私の頭を指で撫でてきますが、これは貶されてるのか褒められてるか…。
『マスター、質問を戻しますが奥の部屋って…』
「あの部屋?
あの部屋はね…」

◇◇◇

『わふー!(神姫がいっぱい!)』
ハーが驚いたのも無理はありません。
その部屋には、棚に飾られた神姫でいっぱいなのですから。
「ここは、僕の父さんが集めたコレクション部屋なんだよ」
ハーはマスターの肩から移動し、棚に並んでる神姫の元へと近づいて眺めたり、同じポーズを決めて遊んでいます。
『ハー、その子たちに触れちゃダメだからね?
マスターのお父さんの大切な神姫だから』
ハーは楽しそうに棚の神姫に向かって手を振っていましたが、反応がなく首をかしげながら答えました。
『…わふ、わふー?(マスター、この子たち動かないよ?)』
「この子らは神姫だけど、ロボットじゃなくてフィギュアだからね。
昔に作られたオリジナル、つまりハーのご先祖様だよ」

そう、ここに飾られているのは本物であって偽物の武装神姫。
ーーいえ、これが本当の武装神姫なのでしょう。

私たちは、この武装神姫のデザインをベースに作られています。
この神姫が発売された当時、ロボットを作る技術はありませんでした。
それが時代が進むに連れて技術が発展。
今では私たちのような小さなロボットを作ることも容易になりました。
そして、武装神姫を知る当時の根強いファンによって、今の私たちは作られたのです。

「凄いよね、夢とかロマンを現実に叶えるっていうのは」
『そうですね…』
私は棚に飾られている、私と同型の神姫を眺めました。
よく見ると、そのハウリンはどの神姫よりも細かい手入れがされています。
マスターのお父様もハウリン型が好きで、この子でよく遊ばれたとか。
親子揃って同型が好きなんて、この子も嬉しいことでしょう。

『わふ!?』
『ハー、どうしたの?』
棚に飾られたハウリンを一緒に眺めていたハーが、突然と声をあげました。
『わふわふふ!(この子の後ろで何か動いた!)』
「…アレじゃないよね?」
ちなみに、マスターの言ったアレとは黒くてテカテカした素早く動く虫のことです。
マスターは虫全般が嫌いで、特にアレが大嫌いです。
まあ、アレを好きだという人間は稀というか、人としてどうかと思いますが。
『マスター、落ち着いて下さい。
ウチにはアレは居ませんし、発生も許してませんから』
「そ、そうだよね。
それに、ウチには優秀なのが二人も居るし!」
こんな時だけ犬扱いですか。
ハーは胸貼ってるけど、間違ってるからね?

それにしても、この部屋で動く物って…。
まさかーー
『わふ、わふわふ?(マスター、ハーが中を確かめてくるよ?)』
『…ハー、待って。
この武装持っていって』
そう言って私がハーに渡したのは、ハウリン型に付属さてれいるバズーカ砲の"吠莱"。
「ハウリン、ちょっと待って!
そんなの打ったら父さんのコレクションに傷がつくよ!」
『大丈夫ですよ、中身の弾はすり替えてありますから。
今は発射されると電気を帯びる金属製の弾です。
発射される速度は人間が指で弾く程度ですし、威力も微弱な電流で、当たっても神姫が数秒ほど身動きがとれなくなる程度の代物です』
「…そんな弾って持ってたっけ?」
『作りました』
「作れるんだ…」
『…』
「……」
『…作っちゃダメなんですけどね?』
「ダメじゃん!?
神姫はそのうち人に反乱とかしないよね!?」
『それは世のマスター次第ですね』
「…ハウリンさん、今日はヂェリカンでも飲みますか?」
『賢明な判断です』
とはいえ、神姫の思考ロジックは人と争うことができないよう設定されています。
…たまに口ケンカくらいはしますけどね。

『さあ、ハー。
相手が見つかったら躊躇なく撃っちゃって』
『わふー(わかったー)』
そういうと、ハーは狙いを棚の奥に定めながら進もうとした、その時ーー
『姐さんタイム!タイムです!』
奥からイッチーが飛び出してきました。
『わふー♪(イッチー♪)』

◇◇◇

私達はマスターの部屋に戻り、夕食のお手伝いをすることにしました。

ちなみに、今晩のメインは私特製のミートソーススパゲッティです♪
といっても、マスターが作り置きした冷凍のソースを小鍋で解凍するだけですが。
神姫も料理ができたら、もっとマスターを喜ばせることができるのに…。

ハーはというと、さっきからレタスを引きちぎってサラダを作ってます。
『わふわふー♪』
ちょっと楽しくなってテンション上がってるのか、引きちぎる回数が増えて千切りっぽくなってますが…。
まあ、細かいほど消化に良いので気にしないでやらせましょう。

「それにしても、何でイッチーはあの部屋に入ってたの?」
『それは、アッシと姐さんが隠れんぼしてたからでして…』
『わふー?(そうだっけ?)』
「…ハー、忘れてたね」
『姐さん…』
そういえば、ハーとボール遊びする前に遊ぼうって誘われてたけど、もしかしたらイッチーを探すのを手伝って欲しかったのかも。
それがボール遊びが優先になって忘れちゃったのか…。
「これからはルールを作って遊ぶこと。
あと、あの部屋には僕の許可なく入るのは禁止ね?」
『わふー!』
『了解しあした!』

そうこうしている内に、料理は終盤。
今日は茹でたてのミートソーススパゲッティに、ちょっと細かいレタスとミニトマトのサラダ…のはずですが。
『…マスター、オーブンで何を温めてるんですか?』
「即席でガーリックトースト作ったんだよ」
オーブンから漂うパンの焼ける匂いとニンニクの香りはそれでしたか。
「ハウリン、ハーと一緒にガーリックトーストを皿に盛り付けてくれる?」
『はーい!』
『わふー!』
マスターの指示通り、フランスパンのガーリックトーストをお皿に盛り付けて…。
『完成です!』

私達もヂェリカンを口にしながら、マスターと一緒にご飯をいただきます。

「それじゃ、せーの…」

『「いただきます!」わふー!』

ここは2036?~004~

ここは2036?~004~

僕ら三人で暮らし始めてちょうど半年、2036年の春を迎えた。

あれから僕は、ハーについてハウリンと話し合った。
僕らが話し合った内容、それはハーが拾われたことを秘密にすること。

神姫には、人間と似た自立型の思考ロジックが組まれている。
つまり、それは喜怒哀楽の"心"があるということだ。

だから、もしもハーが自分が捨て子だったという事実を伝えられればどうなるか。
…僕もハウリンも、ハーが悲しむ姿なんて見たくない。

いつかは話さなければならないことだけど、今はその時期ではないと思う。

ハウリンもそのことは深く受け止めてくれて、ハーのことを気遣いながら大事に面倒見てくれている。

そんな関係からか、ハーの中のハウリンの位置づけは、いつの間にか"ハーの姉"という設定になっていた。
今ではハウリンのことを『お姉ちゃん』と呼んでいる。

…僕には『わふ』としか聞こえないけど。


◇◇◇

「3月に入ったけど、まだ朝は寒いなぁ…」
僕は亀のようにコタツから首だけ出し、身体ごと温める。
『私もまだ暖機モードから抜け出せないんですよ…』
そういいながら、ハウリンもコタツの中に入っていく。
神姫の暖機って、本当にこれがいいのだろうか?
『わふふ〜♪』
コタツの外でスーパーボールを転がして遊んでいるハーを見ると、何だか違う気がする。
「…そろそろコタツ片付けるか」

◇◇◇

ハウリンの抗議を受けながらも、僕はコタツ布団を日干しする。
外の気温は日が出ているためか、思ったほど寒くはなかった。
が、それなのにハウリンはコートを着出して暖を取ろうとする。

…もしかして、ハウリンを家犬として扱ったのが悪かったのかも?
『わふー♪』
『ハー、寒いから遊ぶのは後ね…』

…家犬どころか、駄犬である。

そんな二人を眺めて、ふと気が付いた。
「ハウリンは洋服着るけど、ハーは洋服着ないよね?」
『わふ?』
『前に私の服を着せたら嫌がったんですよ』
「ハーは服嫌いなの?」
『わふわふー』
ハーが何かを答えるが、通訳のイッチーが見当たらない。
「イッチーどこいった?」
『クレイドルでへたってますよ』
ハーのクレイドルに目を向けると、イッチーがコロリと転がっている。
『姐さんの遊びに付き合いやしたら、バッテリーを激しく消耗しやして…』
そういえばハーがボール遊びする前、二人で鬼ごっこしてたっけ。

◆◆◆

『わふー♪』
『姐さん、次は鬼ごっこですかい?
え?全力で逃げてって、何で武装つけて臨戦体制にーーひぃ、狩られるッ!?』

◇◇◇

…ハーが武装状態で全力で逃げるあたり、鬼ごっこのゲームバランス崩れてる気がする。

『姐さんはゴワゴワした布が嫌いでして、モフモフの布なら喜びやすぜ?』
そういえば、昼寝する時にハーはよく毛布の上で寝ていたのを思い出す。
『モフモフの服と言っても、私の持っているのはこのコートくらいですね』
「そもそも、ハーは服欲しいのかな?」
『マスター、神姫は女の子ですよ?お洋服の嫌いな女の子はいません!』
「うーん、じゃあハウリンのコートをハーに…」
そういいながらハウリンに目をくれると、ハウリンは身を固めながら猛抗議。
『いま着てるコートを脱げ何て、マスターは鬼ですか!?
もう節分も終わったんですよ!?
あ、でも豆は台所の棚に残ってるので賞味期限が切れる前に食べて下さい。
勿体無いので』
抗議する内容はともかく、そういうところはシッカリしてるのがハウリンらしい。
「豆はオヤツにでもするとして、ハーは服が欲しい?」
『わふー?(服って必要なの?)』
「…必要なの?」
『何で私に聞くんですか?』
「いや、今までそんなこと考えてもなかったから…」
『必要ですよ?
紫外線からの外装の肌焼けを防いだり、このように寒い日には暖機の助けになりますし』

◇◇◇

「神姫に洋服って、機能的には必要ないですよ?
紫外線は専用のスプレー吹けば防げますし、服なんて暖気の助けにもなりませんよ」
神姫ショップの女性店員さんが丁寧に答えてくれた。
「…ハウリン?ハウリンさーん?」
僕の胸ポケットに入っているハウリンは、先ほどから気まずそうに目線をそらしている。
同じく胸ポケットに入ってるハーは、ハウリンを不思議そうに見つめていた。

「つまるところ、服はただのアクセサリーな訳ですね」
そう答えると、店員さんの目付きが一気に変わる。
「そうですが…やっぱり神姫も女の子なんですよ!
それに、マスターの洋服選びは神姫への"愛のカタチ"が具現化したと言っても過言ではありません!」

店員さんが答えると、ショップ内の客が洋服コーナーへと流れていく。
「うちの娘には、やっぱりこのゴスロリ系がーー」
『マスター、ボクは男の子っぽいのがいいんだけどー』
「紗羅檀にはチョッと露出のある魅せる系がーー」
『マスターはエッチですわー。あまり見ないでくださいましー///』
「イーダに合う服が見当たらない…」
『エレガントな私に似合う服なんて、このような店にはありませんわよ?』
「ああ、このサラシでいいか。
隠せるとこ隠せるし、強く締めたって言えば言い訳もできるじゃん?」
『喧嘩売ってますの!?』

…紳士たちの話の邪魔をしてはいけないので無視する事にする。

『とにかく、私たち神姫にとって服というのは武装に並んで必要なステータスです。
それに、マスターだって気に入ってくれてるじゃないですか』
「それを言われると反論できないなぁ…」
実際、服を着たときのハウリンは素体状態より数倍可愛いくなる。

ハウリン型の武装状態といえば、見た目からも分かる負けん気の強そうなアーマーを着込んでいる。
だから、最初はカッコイイ系の服を選ぶものかと思っていたけど、いざ選び始めたらフリル付きの乙女なドレスだった。

強気な子が服装を変えるだけで乙女とか、どんなラノベ設定なのか…。

まったく……好きだからいいけど!

『わふー?』
だから、ハーがどんな服を選ぶのか興味がある。

同じハウリン型だからハウリンと同じ服を選ぶかと思うけど、実際そうとは限らない。
例えば、ハウリンはイチゴ牛乳味のヂェリカンが好きで、ハーは濃厚ミルク味のヂェリカンが好き。
神姫には心があるから、こんな感じで好みも若干ながら違いが出る。
ハーがハウリンのお下がりの服を着なかったのにも、きっと好みがあるからなんだと思う。

「ハーは服とか着てみたい?」
『わふ、わふ…?(着ても、いいの?)
ちなみに、いま訳してるのはハウリンで、イッチーは家にあるクレイドルで休んでいる。
「ハーが興味があるならね?」
『わふー!(じゃあ着るー!)』
ハーは僕のポケットから外に出て、洋服コーナへと飛ぶように走って行く。

「ハーはどんな服を選ぶのかなー?」
『…マスター、いまのセリフの語尾にハァハァって付けて下さい』
「ハウリン、それ変態扱いだよね!?」
先ほど洋服コーナーにいた紳士たちが、こちらを見ながらサムズアップしてくる。
一部は手招いてもいるが、やはり無視することにした。

◇◇◇

ハーの洋服選びは、数分もかからなかった。
どうやら、前にショップへ来ていた時に目星をつけていたようだ。
『わふっ!(これに決めた!)』

ハーは商品棚に置いてある服を手に取るなり、僕に見せた。
それは他の服に比べるとお手頃価格の…
『…ケモ耳のフード?』
「ハー、コレあんまりモフモフしてないけどいいの?」
『わふ、わふ…(いいの、だって…)』
ハーは服を胸に抱えながら嬉しそうに答えた。
『わふ、わふわふふー♪(だって、ハーはマスターの犬だから♪)』

思わず紳士たちと一緒にサムズアップしてしまった。

◇◇◇

『ハー、あんまり恥ずかしいセリフ言わせないでよ?』
家への帰り道、ハウリンは頬を染めながらハーに話しかける。
ハーは何でそれが恥ずかしいことなのか理解できないのか、首を傾げている。

『しかし、ハーは服が欲しかったんじゃなくて、私みたいなケモノっぽい耳が欲しかったんですね』
ハーは、自分が神姫ではなく、犬だと思い込んでいた。
今は犬に服を着ることは珍しくもないけど、ハーにしてみれば犬が服を着ることは変なのだと感じていたらしい。
そのせいで、服を着ることを嫌がっていた。
でも、僕が誘ったおかげで服を着ることが普通のことだと考えを変えたようだ。

あと、ハーは犬耳が無かったことも気にしていた。
それを解消するのに、ケモ耳がついたフードを選択したのだとか。

しかし、自分を犬だと信じ込むなんて考えもつかなかった。
これには流石の僕も驚いた。

『でも、これならフードじゃなくて耳作ってあげれば良かったのでは?』
ハウリンが自分の犬耳センターに触れながら答えると、ハーは服の耳を触りながら答えた。
『わふ、わふわふ(フードでいいよ、これ気に入ったし)』
「僕も可愛いからいいと思うよ?」
僕は人差し指でハーの頭を軽く撫でてあげる。
すると、もっと撫でて欲しいのか頭を指に押し当ててくる。
理解しているとはいえ、やっぱり仕草は犬っぽい。

「さてと、そろそろコタツ布団が日干しできてる頃だし、帰ろうか!」
『はい、マスター!』
「わふー!」


「それにしても、今日は何でショップに行ったんだっけ?
何かあって、流れでこうなったような…」

『さ、さあ?
何だったんでしょうねー?』

「うーん…」

ここは2036?~003~

ここは2036?~003~


僕らが拾った神姫の一斉、それは予想外の言葉だった。

『わふわふ?』

確か、僕がハウリンを始めて起動した時はーー

◆◆◆

『ーーセットアップ完了、起動します。オーナーのことは、何とお呼びすれば…』

◇◇◇

「うん、こんな感じだったはず」
『ほとんど覚えてないじゃないですか…』
自分のボディをキレイに拭き終わったハウリンが、僕の側へと近寄る。
どうやら、僕は思い出したことを口に出していたらしい。
「さすがにそこまで記憶できてないなぁ…」
『私とマスターの始めての思い出を、忘れてしまったんですか?』
呆れたような表情で、ハウリンが冷たく答える。

これは、まずい。
ハウリンと僕が始めて出会った思い出を思い出せないなんて、マスターとしては痛い失態だ。
ここは素直に謝った方がいいだろう。
「ごめんなさい…」
『まあ、私もマスターの呼称を聞くまでの間は、メモリーに記憶されてないんですけど』
「…このごろ、ハウリンが僕に対する態度が冷たくなってきたと思うんだ」
『さあ?秋になったからじゃないんでしょうか?』
じゃあ、冬になったらどうなるんだろう。
…考えたくもないので話を進めることにする。

クレイドルで待機している神姫を、眺めるとーー
『わふわふ?』
やはり同じ反応が返ってくる。
「うーん、言語設定間違ったか、それともバグなのか…」
『言語設定も間違えありませんし、ステータスチェックも正常でしたよ?』
「ネットで検索してみようか」
ノートパソコンのウィンドを切り替えようとしたとき、目の前に浮遊物が飛び込んできた。
『ダンナ、ちょっと待った!そのことならアッシに任せてくだせぇ!』

◇◇◇

僕の目の前に飛び込んできたきたのは、プチマスィーンだった。

プチマスィーンとは、ケモテック社製の神姫に付属されてるビット型の武装の一種だ。
特徴は、他社の神姫のビットにはない独自のAIを搭載し、神姫のサポートをも行える。

いま目の前を浮遊しているのは、飛行武装状態をした胸に"壱"と書かれた犬のプチマスィーンだ。
『ダンナ、ダンナ!姐さんのことならあっしに任せてくだせぇ!』
そういうプチマに、ハウリンが話に割って入る。
『お前、この子の言ってること分かるの?』
ハウリンがいうと、プチマがチッチッチッと舌打ちし(実際は舌も人差し指もない)、間違ってます的なアピールをする。
『ハウリンの姉さん、アッシのことは"イッチー"と呼んでくだせぇ!』
そんなアピールにイラっときたのか、ハウリンが無表情でこたえる。
『…壱号』
『イッチー』
『壱号…』
『イッチー』
『壱号!』
『イッチー♪』
『…』
『…』
少しの間、無言のやり取りが行われたが、我慢できなかったのはハウリンだった。
『マスター!あいつ生意気ですよ!?プチマのくせに、自分で名前をつけるとか無いですよね!?』
「いや、涙目で言われても…」
『泣いてません!』
そういいつつ、目をゴシゴシと擦って涙を隠す。
…何だか子供の喧嘩を見てるかのようだ。
「えーと、プチマのことはよく分からないけど、そういうモノじゃないの?」
『ぜーんぜん違います!』
「まあ、名前くらいいいんじゃないかな?本人も気に入ってつけたんだし」
『さすが姐さんのマスター!わかってらっしゃる!』
正直、これ以上は厄介ごとを増やしてもらっても困るのが現状で。
もう時間も昼を過ぎてお腹も減ってきたので、話を進めたいのだ。

「で、イッチーはこの子の言ってることが分かるんだよね?」
『姐さんには特殊なボイスパーツが付いていやして、話す言葉が全て"わふ語"に翻訳される訳でさぁ』
「じゃあ、こっちも話す時は"わふ語"に直さないとダメなの?」
『いえ、それについては普通に話してくだせぇ』
「だけど、この子と話す時は常にイッチーが必要になるという訳か…」
僕がそう答えると、イッチーは僕の耳元まで移動し、囁くように言った。
『いえ、普通にケモテック社のホームページにアクセスすれば、無料でハウリンの姉さんにも翻訳が可能にーー』
そのときだった。
ハウリンの頭に着いていた犬耳パーツがピクピクと動いて、
『マスター!ケモテック社のホームページにアクセスして翻訳ソフトをインストールしてきますね!』
してやったりな笑顔で、ハウリンは自分のクレイドルに戻って行った。
「…ウチのハウリンは地獄耳だから、隠し事は無理だからね?」
『へぇ…』

◇◇◇

『わふわふ?(オーナーのことは、何とお呼びすれば宜しいですか?)』
「その一言にそんな長い意味が…」
『まあ、語数はあまり関係ないでさぁ』
僕はクレイドルで待機中の神姫に答える。
「僕のことはマスターでいいよ?」
『わふ、わふふー(了解しました、マスター)』
「マスターって言うのも"わふ"なんだ」
『そういう仕様でさぁ』
『わふふー?(マスター、私に名前をいただけないでしょうか?)』
そう言われて、思い出す。
『どうせマスターの事です、名前なんて考えてなかったんですよね?』
「それ以前に、名前の設定すら忘れてた…」
ハウリンがいつも遊んでいるスーパーボールを僕の顔面に向かって投げつけられたが、鼻先をかすめて回避する。
「全く、神姫にロボット三原則ってのはないのかね…」
文句をいったら二個目が飛んできたので、これ以上は口ごたえしないことにする。
『私の時みたいに、適当につけたら許しませんからね?』
「いや、適当ではないよ?僕はハウリンって名前に惚れて君を迎え入れたんだからね?」
そういうと、照れ隠しに三個目が飛んできた。
それも回避した時、ふと名前が思いついた。

「うん、これがいい」
『わふ?(お決まりになりましたか?)』
「キミの名前は"ハー"だよ。ハウリンの頭一文字を取って"ハー"」
『何だか、ダンナのネーミングセンスがひでぇんですが…』
『私もデフォルトネームだし、マスターときたら…』
そこの二人、いつの間にヒソヒソ話をする仲になったんだ…。

名前を設定しているのか、ハーのボディからキューンと短い駆動音がした。
『わふー(登録完了しました)』
そう答えると、ハーはクレイドルから起き上がり、僕の胸に飛び込んできた。
『わふわふふー♪(よろしくお願いしますね、マスター♪)』
満面の笑顔で答えるハー。
そんな僕らを見て苦笑しながら見つめるハウリン。
僕とハーの周りをクルクルと周り続けるイッチー。

こうして僕たちの生活は始まった。
プロフィール

霧ヶ咲 こかげ

Author:霧ヶ咲 こかげ
GUNMAに住む隠れ武装紳士。
部屋を片付けても、神姫の箱に占領される一方。

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